【2026年版】IT導入補助金、"採択された後"に1億800万円が返還になった話|デジタル化・AI導入補助金の新ルール4つ

【2026年版】IT導入補助金、"採択された後"に1億800万円が返還になった話|デジタル化・AI導入補助金の新ルール4つ

杉井 慶成
杉井 慶成Web制作ディレクター、Web create service

「IT導入補助金、調べれば調べるほど不安になる」 「申請代行業者の話を鵜呑みにしていいのか分からない」 「採択された後の返金ルールが、どこにも書いていない」

このような不安を抱えながら申請準備を進めている経営者や情シス担当の方も多いのではないでしょうか。本記事では、2026年から「デジタル化・AI導入補助金」へと名称変更されたIT導入補助金について、申請テクニックではなく「採択された後」に何が起きるのかにしぼって、会計検査院の公表資料や中小企業庁の交付決定リストといった一次情報をもとに整理しました。1億800万円の返還事例、1年以内解約での全額返金ルール、2回目申請時に効いてくる重複加点の減点措置まで、4つの落とし穴を順番に見ていきます。ぜひ最後までお読みください。

そもそも2026年の「デジタル化・AI導入補助金」とは|旧IT導入補助金からの変更点5つ

2026年度(令和8年度)から、長く「IT導入補助金」と呼ばれてきた制度は「デジタル化・AI導入補助金」へと名称が変わりました。所管は引き続き中小企業庁、事務局はTOPPAN株式会社が担っています。申請する事業者から見た主な変更点は次の5つです。

  1. 名称変更:IT導入補助金 → デジタル化・AI導入補助金
  2. AI活用ツールの位置づけが明確化(生成AI連携サービスの登録枠を整理)
  3. 賃上げ要件の新設:1人当たり給与支給総額の年平均成長率を物価安定目標+1.5%以上
  4. 重複加点ルールの厳格化:過去に交付決定を受けたソフトウェアと「プロセス完全一致」の場合は不採択
  5. 再申請時の追加要件:150万円以上の申請者は給与+3%、最低賃金+30円、賃上げ計画の従業員表明が必須

特に3と5は、これまでIT導入補助金を「設備投資の一部」くらいの感覚で活用してきた中小企業にとっては、計算前提を変える話になってきます。

採択率55.43%という数字の読み方|2024年から20ポイント下がった

2026年デジタル化・AI導入補助金の採択率は、申請枠ごとに大きく差が出ています。

申請枠採択率
通常枠50.72%
インボイス枠(インボイス対応類型)55.56%
セキュリティ対策推進枠100%
全体55.43%

2024年のIT導入補助金は通年で採択率75〜79%程度で推移していたため、1年で約20ポイント下がったことになります。「申請すれば大体通る補助金」というイメージで2025年以前の情報を見ていると、ここで一度認識を更新しておく必要があります。

不採択の主な理由として中小企業庁系の各記事で繰り返し挙げられているのは次の4つです。

  • 申請書類の不備(記載漏れ・誤字脱字・必要書類の未提出)
  • 生産性向上の具体性不足(自社課題と導入目的が結びついていない)
  • 対象経費の不適切さ(ハードウェア単体購入、本業と無関係なソフト開発費)
  • 過去の交付決定との重複(プロセスが重なる場合は減点、完全一致は不採択)

申請書を書き慣れた支援事業者でも、4つ目の重複の取り扱いを軽く見て減点を受けるケースが増えています。

申請枠と補助上限|通常枠/インボイス枠/セキュリティ枠の数字

申請枠の補助率と補助上限を整理しておきます。

通常枠

  • 補助率:1/2以内、または2/3以内(小規模事業者・最低賃金近傍の事業者)
  • 補助額:5万円以上150万円未満(1プロセス以上)/150万円以上450万円以下(4プロセス以上)

インボイス枠(インボイス対応類型)

  • ソフトウェア:3/4以内または4/5以内(50万円以下)/2/3以内(50万円超〜350万円以下)
  • ハードウェア:1/2以内(PC・タブレット類は10万円以下、レジ・券売機類は20万円以下)

セキュリティ対策推進枠

  • 補助率:小規模事業者2/3以内、中小企業1/2以内
  • 補助額:5万円以上150万円以下

通常枠の補助上限が「4プロセス以上で450万円」になっている点に注目してください。1プロセスだけの申請では150万円未満で頭打ちになります。会計ソフト1本だけ入れたい、というケースでは思ったより補助額が伸びないことを、申請前に経営計画と突き合わせておく必要があります。

申請スケジュール|1次締切は2026年5月12日17:00

2026年通常枠は4次締切までが設定されています。1次締切は2026年5月12日17:00、交付決定は2026年6月18日予定です。注意したいのは、交付決定後でないと発注・契約・支払いを開始できない点です。「とりあえず先に契約しておこう」は補助対象外になる典型パターンなので、社内発注プロセスとの整合を取っておきます。

採択された後に待っている4つの落とし穴

ここまでが申請までの基礎情報です。本題はここからです。

落とし穴①|会計検査院が指摘した1億800万円の返還事例【現場でのつまづき】

2024年10月21日、会計検査院は中小企業庁長官および中小企業基盤整備機構理事長に対し、IT導入補助金の交付に関して是正措置を要求する文書を公表しました。検査対象となった令和2〜4年度において、30事業主体・41事業で1億812万円が「実質的還元」によって過大に交付されていたという内容です。

「実質的還元」とは何か。検査院の資料を読むと、典型的な構造はこうでした。

ITツール導入と前後して、ソフトウェアメーカーやベンダーから「協賛金」「紹介料」など実態を伴わない名目で資金を受け取り、自己負担額を実質的に減額・無償化、あるいは利益を得ていた。

たとえば事務局には事業費1,500万円として申請し補助金920万円の交付を受けたある事業者は、ベンダーから紹介料名目で資金を受け取った結果、最終的な事業費は実質ゼロ、さらに180万円の「利益」が出ていた、と検査院は記載しています。

問題はここからです。検査院は「不適正ベンダー」を15社特定し、それらが支援した事業は1,978事業・補助金額58億2,891万円に上ると指摘。さらに27社が支援する67事業主体・88事業(2億5,352万円)でも同様の資金の流れがあったとしています。つまり、悪意なく申請した中小企業であっても、選んだ支援事業者の側に問題があれば、調査対象に巻き込まれる構造になっています。

中小企業庁はこれを受けて2024年8月、IT導入支援事業者の登録取消に関する案内を出しています。登録が取消されたベンダー経由で導入したツールは、その後の保守・追加申請で不利益を被るリスクが残ります。

申請前に「採択率を上げる」ことばかり考えていると、ベンダー選びの方が返金リスクに直結するという事実が見えにくくなります。

落とし穴②|1年以内に解約すると補助金は全額返金、サブスク2年契約なら2年以内が対象

これも見落としがちな点です。デジタル化・AI導入補助金で導入したITツールは、1年以内に解約すると補助金が全額返金になります。サブスクリプション代金2年分を補助対象にした場合、2年以内の解約が返金対象です。

ここで実務的に何が起きるか。たとえば「採択されたから」と勢いで導入したクラウドCRMが、現場で全く使われず、半年で解約検討に入った場合。解約すれば返金、続ければ月額が垂れ流し。どちらに転んでも損が確定する状態になります。SaaS化が進んだ今、補助金の対象経費の多くがサブスクであることを考えると、「採択された後の1〜2年は解約できない」という前提で導入計画を立てる必要があります。

落とし穴③|重複加点の減点と「プロセス完全一致=不採択」

2回目以降の申請を考えている事業者にとって最大の壁です。

  • IT導入補助金2024または2025で交付決定を受けたソフトウェアのプロセスと重複する場合は減点
  • 完全一致の場合は不採択
  • インボイス枠でも「同一機能のITツール」は更なる減点

たとえば前年に会計ソフトを補助金で入れた会社が、翌年に「販売管理機能つきの新しい会計ソフトに乗り換えたい」と申請しても、プロセスが重なる部分があれば減点を覚悟することになります。「補助金で毎年ツールを入れ替える」運用は、2026年からは事実上難しくなったと考えた方が安全です。

落とし穴④|賃上げ要件未達による返還リスク

2026年から導入された賃上げ要件は、申請段階のチェックではなく事業実施後の追跡に効いてきます。

  • 全申請者:1人当たり給与支給総額の年平均成長率を物価安定目標+1.5%以上
  • 150万円以上の申請者:年平均成長率+3%(物価安定目標+1%)以上、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上、賃上げ計画を従業員に表明済み

物価安定目標は日本銀行が2%を掲げているため、+1.5%だと実質3.5%/年の賃上げを3年間継続する計算になります。中小企業の昇給率実績が業種によっては2%台にとどまることを考えると、これは「軽い努力目標」ではなく「未達なら返還も視野に入る要件」として読むべき数字です。

実名事例で見る|採択後にちゃんと使われた4社

ここまで落とし穴の話を続けたので、逆に「ちゃんと使われている」事例も拾っておきます。各事例は支援事業者または公開ブログ上で確認できる範囲の数字です。

事例1|SES企業×freee+kintone:月40時間の工数削減

ある支援事業者の公開事例では、SES企業がfreee会計とkintoneを連携させ、案件管理から請求書発行までを自動化することで月あたり40時間の工数削減を実現しています。月40時間は1人月の約4分の1にあたるので、経理1名の体制であれば実質「半人分のリソースが浮いた」計算になります。

参考:【2026年最新】IT導入補助金でfreee会計や販売管理を導入!対象枠や申請手順、注意点など解説(CAREARC BLOG)IT導入補助金は2025年も実施!対象者や申請枠、申請の流れを解説(freee)

事例2|従業員30名規模の製造業×kintone:年200時間の作業時間削減

紙ベースの在庫管理からkintoneアプリへ切り替えた結果、年間200時間の作業時間削減を達成。30名規模の企業で年200時間というのは、1人あたりに均すと年6.6時間ですが、現場では「在庫表を探す時間」が0になることのほうが体感的なインパクトが大きいという声が紹介されています。

参考:【最新版】kintoneをIT導入補助金を使用して構築(株式会社コムデック)【2025年版】kintoneはIT導入補助金を使って導入できる!(コムデックAIラボ)

事例3|建設業×kintone:月20時間以上の残業削減

案件管理アプリと日報アプリをkintoneで構築した結果、月20時間以上の残業削減。建設業は移動・現場常駐が多く、「事務所に戻らないと日報が書けない」がそのまま残業時間に直結する業種です。スマホからの日報入力に切り替えただけで月20時間動くケースは、業種特有の効きの良さがあります。

参考:【2025年IT導入補助金(3次)受付中】kintone・マネーフォワードの導入&申請をキャップドゥー・ジャパンがサポート【最新版】kintoneをIT導入補助金を使用して構築(コムデック)

事例4|製造業×パッケージ2種+連携サービス3種:実質負担75万円

総事業費約241万円のところ、補助金約166万円が交付され、実質負担は約75万円(事業費の約30%)に収まったケース。事業費そのものを抑えるのではなく、「パッケージ+連携の組み合わせを4プロセス以上にして補助上限の450万円ゾーンに乗せる」設計をしたことが、実質負担を圧縮した要因です。

参考:【2026年最新】IT導入補助金でマネーフォワードを導入!申請手順やサポート事例など紹介(CAREARC BLOG)IT導入補助金 2025対象ツール(ソフトウェア)一覧

4社に共通するのは、「補助金が降りること」ではなく「降りた後にどう使うか」を先に決めていた点です。逆に「とりあえず採択されてから考える」発想で申請した会社の事例は、なぜか公開ブログでも「導入後の数字」が出てきません。

返金リスクを回避するための申請前チェック5項目

ここからは、複数の支援事業者ブログと検査院資料を読み比べた上で、「採択された後」を逆算して決めるべきチェック項目を5つに整理したものです。一般的な「採択率を上げるコツ」記事には含まれていない観点を中心に並べました。

① 1〜2年使い切れるかをExcelで先に試算する

サブスク2年分を補助対象にする場合は2年以内解約が返金対象なので、月次稼働率(実利用ユーザー数 ÷ ライセンス数)を先に試算します。導入直後は100%でも、3ヶ月後に60%、半年後に40%まで落ちるパターンが業務系SaaSでは典型的です。「半年後に40%まで落ちても続ける覚悟があるか」を経営層が決めないまま申請すると、解約と返金の二択に追い込まれます。

② 支援事業者を「登録取消リスト」とセットで確認する

中小企業庁は不適正ベンダーの登録取消を公開しています。申請を依頼する支援事業者が、過去に取消や指導を受けていないかは、申請前に必ず確認しておきたい項目です。検査院に名指しされた15社経由の事業は1,978件、約58億円規模で調査の波が及んでいます。「採択率の高さ」だけを売りにしている代行業者は、その実績がどう積み上げられたのかを質問してみる価値があります。

参考:IT導入補助金におけるIT導入支援事業者の登録取消について(中小企業庁)サービス等生産性向上IT導入支援事業の実施に当たり、実質的還元等により過大に交付された補助金について返還手続を行わせるよう適宜の処置を要求(会計検査院)

③ 「協賛金」「紹介料」「キャッシュバック」の打診は記録を残して断る

検査院公表後、ベンダー側からの直接的な還流提案は減ったとされていますが、「協賛金」「マーケティング協力金」など名前を変えた打診は今も存在します。メールで提案された場合はそのまま保存、口頭の場合はメモ化しておきます。後日調査に入られた場合、会社側の証跡が残っているかどうかで対応が変わります。

④ プロセス重複を避けるために「過去申請の交付決定通知」を引っ張り出す

過去にIT導入補助金で交付決定を受けたことがある会社は、交付決定通知書に記載されたプロセス名を今回の申請プロセスと突き合わせるのが先です。完全一致なら不採択、部分一致なら減点、というルールが2026年からはっきりしているため、ここを曖昧にしたまま申請を進めると申請工数だけ消費して不採択になります。

⑤ 賃上げ要件は3年間の昇給テーブルで根拠を作る

「給与+1.5%(150万円以上は+3%)×3年」は、就業規則・賃金規程レベルで根拠を残しておくのが安全です。賃上げ計画書の従業員表明は150万円以上の要件ですが、それ未満でも社内議事録に残しておくほうが、後の追跡調査で説明しやすいという支援事業者の声があります。

支援事業者の登録取消リストを開いて感じたこと

中小企業庁の登録取消ページを開いてリストを下にスクロールしていくと、社名の横にぽつんと登録取消とだけ書かれた行が並んでいる。

検査院の資料の方も、表紙だけは事務的なのに、本文に入ると「実質的還元」という一語のためにページ数が割かれている。1,978事業・58億円という数字は大きすぎてピンとこないけれど、1事業あたりに割り戻すと約294万円。中小企業1社の3〜4ヶ月分の人件費くらいの規模です。それが調査対象に入っている。

補助金は本来「ぶら下げて申請してもらって、後で精算する」制度です。けれども2026年からの変更点を読むと、国側はその前提を少しずつ崩しにきている。賃上げ要件、プロセス重複の不採択、登録ベンダーの取消。どれも「とりあえず採択された側」の責任を増やす方向に動いています。

そして一番気になっているのは、こういう情報がまとまって日本語で読める場所が、まだ少ないことです。検査院の公表PDFを開いたことがある中小企業の経営者は、おそらく1%もいない。

よくある質問

Q1. 旧IT導入補助金で交付決定を受けた会社は、2026年に再申請できますか?

できます。ただし「プロセスが完全一致」する場合は不採択、部分一致でも減点となるため、過去の交付決定通知に記載されたプロセス名と今回の申請内容を突き合わせる作業が事前に必須です。

Q2. 申請書は自社で書くのと支援事業者に依頼するのと、どちらがいいですか?

正解は会社規模・経理体制によって変わります。一般論として、150万円以上の申請かつ初回の場合は、支援事業者の知見を借りたほうが書類不備のリスクを下げられます。ただし「実績を盛っているように見える」「協賛金・紹介料の打診をしてくる」業者は避ける、という最低限のラインだけは守ったほうが安全です。

Q3. 採択された後でツールを変更することはできますか?

原則できません。交付決定後は申請内容に従って導入・支払いを進める必要があります。仕様変更が必要な場合は、事務局への変更申請が別途必要になります。

Q4. 2026年の補助金で、生成AIツール(ChatGPT、Claudeなど)は対象になりますか?

「デジタル化・AI導入補助金」へ名称変更されたことで、AI関連ツールの位置づけは整理されつつあります。ただし対象になるのは原則としてITベンダーが事前登録したITツールであり、個人利用の汎用AIサービスを単独で対象にできるとは限りません。利用予定のサービスが交付決定事業者一覧の登録ITツールに含まれているかを、事務局サイトで先に確認してください。

参考:交付決定事業者一覧(デジタル化・AI導入補助金2026)

Q5. 1次締切(2026年5月12日)に間に合わなかった場合は?

2026年通常枠は4次締切まで設定されています。1次に間に合わなくても2次以降があるため、書類不備のまま無理に1次に出すよりは、2次でしっかり仕上げて出すほうが結果的に採択率が高くなる、というのが申請支援の現場でよく聞かれる話です。

まとめ|「採択率」より「採択された後の3年間」を見たほうがいい

最後に、本記事の論点を整理します。

  • 2026年デジタル化・AI導入補助金の採択率は通常枠50.72%、全体55.43%。2024年から約20ポイント低下している
  • 会計検査院は2024年10月、1億812万円の不正交付を指摘。不適正ベンダー15社経由の事業は1,978件・58億2,891万円に上る
  • 1年以内の解約は補助金全額返金、サブスク2年契約なら2年以内解約が返金対象
  • 重複加点ルールが厳格化し、プロセス完全一致は不採択、部分一致でも減点
  • 賃上げ要件は3年間で給与+1.5%(150万円以上は+3%、最低賃金+30円)が必須

ここまで読んでいただいた方には伝わっていると思いますが、「採択率を上げるコツ」の記事ではありません。むしろ採択された後の3年間に何を背負うのかを、申請前に直視するための記事です。検査院の公表資料も中小企業庁の登録取消リストも、誰でもアクセスできる場所にあります。申請代行業者に任せきりにする前に、一度だけ、自分の目で開いてみてほしいというのが、一番のお願いです。

採択された後の3年間を経営計画の側から見たときに、それでも「やる価値がある」と判断できるなら、デジタル化・AI導入補助金は依然として強力な制度です。逆に、その3年間が苦しい絵にしかならないなら、補助金を取らずに月額数千円のSaaSから始めた方が、結果的に会社のキャッシュフローは守れます。


出典・参考リンク

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